症例報告ブログ

猫伝染性腹膜炎(FIP)治療薬

FIP(猫伝染性腹膜炎)は、致死的かつ、効果的な治療のない病として長い間たくさんの猫ちゃんや飼い主様、獣医師をも苦しめている病気です。

しかしここ最近FIP治療薬の研究が進み、治療、寛解できる病気として変わりつつあります。

初期に特効薬として研究された薬剤は非常に入手しにくく、その擬似品が薬として認可されず流通するようになりましたが、倫理的な面や安全面から当院で使用することはありませんでした。

しかし今回、モルヌピラビルという薬を使い寛解まで持ち込むことができました。

FIPは近年人で流行しているCovid-19と同じコロナウイルスによって引き起こされます。

モルヌピラビルはここ数年Covid−19の治療薬の研究が進んだことで、人体薬としてではありますが薬事申請され、日本でも特例認可されており、薬の正規品として使用ができること、比較的安価な点が今まで流通していたものとは異なります。

 

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症例
猫 雌 4ヶ月
腹部張りを主訴に来院。
腹水、発熱を確認。腹水性状と腹水中コロナウイルス遺伝子検査、臨床症状からFIPと診断。

 

腹水貯留により腹部がすりガラス状に白くなっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抗生剤、インターフェロン、ステロイド治療を10日間実施するが体調や発熱の改善は乏しかった。

腹水貯留、高グロブリン血症、炎症マーカーSAAの高値も認める。

ここでモルヌピラビルの投薬を開始した。

投薬開始2日目には元気が出てきた。3日目には食欲も改善。以降体調は改善傾向で腹水も減少。14日目には腹水消失。

 

投薬前、腹水が認められるため臓器の間に黒い部分が多い。(扇状の中がエコー画像)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投薬後、腹水が消えて黒い部分は少なくなっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投薬8週後に効果判定として測定した炎症マーカーSAA、高グロブリン血症も正常化、寛解となった。

モルヌピラビルは休薬、ステロイドも徐々に減らしていった。

休薬後21日経った現在も寛解状態を保っている。

 

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今回の症例は投薬後数日で顕著な効果が認められ、良好な結果を得ることができました。

モルヌピラビルは獣医領域でも新しい薬のため副作用の情報も乏しく、今後耐性ウイルス出現等の心配もあります。

また投薬タイミングの判断なども含め、処方は慎重に行っていくべきだと考えています。

 

 

2022.11.14 追記

現在、人体薬としての治療薬需要が高まったため、モルヌピラビルの入手が困難になっており、

当院でも処方が難しくなっている状況となっております。