免疫介在性溶血性貧血
今回は免疫介在性溶血性貧血(IMHA)について触れていきたいと思います。IMHAとは補体を介して直接的に、あるいはマクロファージによる貪食により赤血球の崩壊が亢進する疾患であり、その原因や溶血の機序について不明な点も少なくありません。
IMHAは
- 抗体の産生機構に異常をきたすことで自己抗体が産生される(特発性IMHA)
- ウィルス・細菌などの感染により赤血球膜の抗原が変化して抗原性を獲得し、その抗原と反応する抗体が産生される(二次性IMHA)
以上のような機序により発症します。
犬においては特発性IMHAが多いとされ、好発犬種としてコッカースパニエル、プードル、マルチーズなどが挙げられます。一般に雌は雄よりも発生頻度が高く(約3~4倍)、中年齢(2~8歳)での発生が多いとされています。この疾患は、罹患後2~3週間で死亡する例も多く、早期診断・治療が必要な疾患です。
症状は基本艇的に急性貧血に伴うもので、元気消失、食欲廃絶、可視粘膜蒼白、呼吸促拍などがみられる。
IMHAの診断においては
- 溶血を疑う貧血
- 球状赤血球症、赤血球自己凝集、直接クームス試験陽性の内1つ以上当てはまる
- 溶血を引き起こすほかの疾患の除外
といった検査結果から本症例を疑います。除外すべき他の疾患としては玉ねぎ中毒、腫瘍、バベシア症、猫ならヘモプラズマ感染症などがあります。また、多発性関節炎や全身性エリテマトーデスのような免疫疾患についても注意が必要です。
→:球状赤血球
重篤な急性のIMHAでは死亡率が高く、血栓塞栓症や播種性血管内凝固(DIC)が死因となることが多いため、急性例に対しては入院下で抗血栓凝固療法を併用することがあります。溶血の進行が激しく輸血をしないと死亡の可能性がある場合には輸血も実施されます。
処方としては、免疫抑制量のプレドニゾロンを投与します。免疫効果を高めるためやプレドニゾロンによる副作用を軽減するため、最初からシクロスポリンやアザチオプリンなどの他の免疫抑制薬を併用することもあります。
症状が改善し、血液検査での貧血が改善・安定されてきたらプレドニゾロンの投薬量を段階的に減らしていきます。プレドニゾロンを休薬できるまでに症状が落ち着いていたとしても、休薬後も定期的に血液検査を続けることが望ましいです。臨床症状がなくとも、血液検査で貧血の傾向が見られたら投薬を再開します。また、投薬を継続しなければいけない症例やプレドニゾロンに対する反応が乏しい症例も少なくありません。
<症例>
パピヨン 12歳
主訴:
元気・食欲不振、ふらつきを主訴に来院
検査:
赤血球数(RBC):2.46M/μℓ、ヘモグロビン(Hb):5.7g/dL、ヘマトクリット(Hct):17.6%
画像検査にて腹腔内出血や貧血の原因になるような著変はみられなかった
血液塗抹にて球状赤血球がみられた
治療:
プレドニゾロン2mg/kgから開始。3病日目からはシクロスポリンの併用を始めた。治療開始から一ヵ月半ほど経過したところ、赤血球数(RBC):3.92M/μℓ、ヘモグロビン(Hb):9.6g/dL、ヘマトクリット(Hct):27.9%まで上昇。今後も経過を見ていく。