ナルコレプシー
ナルコレプシーとは慢性の睡眠障害であり人以外でも犬や馬において自然発症することが知られています。人では日中の過度の眠気、情動脱力発作(カタプレキシー)、レム睡眠関連障害を特徴とします。犬では食事・遊戯などの刺激で誘発されるカタプレキシーを特徴とし、孤発性と家族性が認められます。孤発性はヒポクレチンの産生障害、家族性はヒポクレチンの受容体変異が認められます。
ヒポクレチンとは?
ヒポクレチンは視床下部外側部に局在し、覚醒のコントロールにとって重要な役割を担います。
診断:
確定診断は以下の項目を満たすこと、またその他の疾患が除外されることによって診断されます。
1カタプレキシーの発現
2フィゾスチグミン発作誘発試験(0.05mg/kg/ivで5-30分持続)
3CSF中のヒポクレチン1濃度の異常低値(特異度と感度が最も高い)
治療:
治療方法は以下の投薬によって行われます。
1三環系抗うつ薬
2アドレナリンα2受容体拮抗薬
3ベンズアミド系抗精神病薬
予後:
ナルコレプシーは進行性かつ致死的な疾患ではありませんが、生涯にわたり症状が続くため、薬物療法とQOLの改善が求められます。投薬の他に自宅での工夫としては以下の方法が考えられます。
1食事の際には柔らかいマットを敷くこと
2ガラスや陶器の器をさける
3低カロリー食を与える(体重管理を目的として)
症例:
犬 種:M.ダックスフンド
年 齢:13歳齢
雌 雄:去勢雄
体 重:6.2kg(BCS3/5)
飼育方法:室内飼育・単頭飼育
ワクチン接種歴:毎年ワクチン接種済み
主訴:食事中にねてしまう、下の図のように患者は食事をすると脱力状態になり眠ってしまいます(カタプレキシー)。
MRI検査:下垂体に嚢胞性の病変を認めたがそれ以外の異常所見は認められませんでした。
診断:
1カタプレキシーの発現 →◯
2フィゾスチグミン発作誘発試験 →☓
3CSF中のヒポクレチン1濃度の異常低値→◯
以上の結果から本症例はナルコレプシーと診断しました。ナルコレプシーには症候性ナルコレプシーという疾患も報告されているためMRI検査での鑑別は必要であると考えています。
症候性ナルコレプシーのMRI検査:
本疾患もカタプレキシーを発症した症例ですがMRI検査にて下垂体領域に巨大な腫瘍が認められています。