症例報告ブログ

脊髄梗塞

今回は脊髄梗塞というあまり耳慣れない病気についての紹介です。MRIによってほかの疾病との鑑別や予後の予測をすることができます!

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症例:イタリアングレーハウンド、7歳
主訴:突然の右後肢麻痺、痛みはない
レントゲン検査‐特記事項なし
CT検査‐明らかな圧迫病変を認めない
MRI検査‐胸腰部の脊髄実質にT2強調画像にて高信号、T1強調画像にて等信号、造影T1強調画像にて増強を認めない所見を認める
仮診断:脊髄梗塞
治療経過:3日後には右後肢の臨床症状の改善を認めた。その後無治療にて2週間後に歩行可能となった

【CT検査】

1

2

脊髄造影前                   脊髄造影後

【MRI検査(T2強調画像)】

3

4

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・脊髄梗塞とは
脊髄梗塞は脊髄血管内の塞栓による急性虚血性脊髄障害である。

・原因
脊髄梗塞は線維軟骨塞栓症(FCE)が最も一般的な原因である。他にも血栓症や脊椎・脊髄腫瘍による局所の脊髄血管障害、寄生虫や異物の脊髄血管迷入などが原因となるが、FCE以外の原因による脊髄梗塞はきわめてまれである。

・犬種
どの犬種・猫種でも起こりうるが、若齢から中齢の大型犬、ミニチュアシュナウザー、Mダックスフンド、シェットランドシープドック、ハウンド系に好発する。

・症状
一般的には急性発症(発症後一時的な悪化がある場合もある)。その後は改善傾向あるいは非進行性という臨床経過をたどる。発症時のみに悲鳴をあげたり、発症からほんの数時間の間だけ疼痛を示す場合があるが、一般的には無痛性である。発症時には一肢または片側前後肢の跛行を示す。24時間以降に症状が進行することは脊髄軟化症に進行する例を除き極めて稀である。

・診断
シグナルメント(犬種・年齢)や臨床症状(急性発症・無痛性・非対称性の神経学的異常・治療経過で改善傾向を伴う)、画像診断(レントゲン・CT・MRI)で行われる。特にMRIの画像診断は本疾患の診断に有効である。

・治療
得意的な治療法はない。発症直後であれば脊髄浮腫などの二次的な変化に対してプレドニゾロンの投与が有用であるかもしれないとの報告もある。

・予後
重症度にもよるが一般的に歩行回復への予後は良好である。