症例報告ブログ

健康診断と腹腔鏡による肝生検

みなさんは自分のわんちゃん、ねこちゃんに定期的な健康診断をうけさせていますか?健康診断を受けたけど大きな異常がない、と言われて安心される方もいれば拍子抜けされる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、目に見える症状がなければ血液検査などに異常がないことがしばしばです。しかし、目に見える症状もなければ少しだけ数値が高いだけなのに時間とともに悪化する病気を持っているわんちゃん、ねこちゃんは実際いるのです。
今回、ご紹介するのは目に見えた症状がないものの、健康診断で肝臓の数値が高かった子たちの一部をご紹介します。

症例1
1歳 未去勢オス トイ・プードル 3.66kg BCS:3.0
他院で健康診断を実施した。その時の肝数値が上昇(ALT:244U/L)していたことから食事指導をうけ1ヵ月経過をみていた。その後の検査結果がALT296U/Lで上昇していたことから心配になり当院を受診した。
まず、麻酔の必要がないⅩ線検査、エコー検査を実施した。この結果、肝臓が小さいこと以外に大きな異常は認められなかった。エコーレベルで門脈の萎縮がなかったことから肝実質病変を疑い、麻酔下での造影CT検査と腹腔鏡による肝生検を計画した。
得られた結果から、原発性門脈低形成と診断した。原発性門脈低形成は根本的治療がないものの単独では比較的予後のよい病気として知られている。本症例は肝臓の負担を減らす目的で低脂肪食と利胆薬の内服を処方した。それによって、1ヵ月後には数値が基準値に改善した。その後は、定期検査で状態の安定を確認している。

下写真は抜糸時のもの、発毛が早く術野にも被毛が認められる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

症例2
2歳 避妊メス(他院で手術) 柴犬 8.6kg BCS:3.0
当院で健康診断を数回実施している。症状はないものの肝数値は毎回高かった(ALT:200~400U/L)。生活習慣の問題ではなく何かしらの肝疾患を疑ったため、追加検査を提案した。麻酔の必要のないⅩ線検査、エコー検査では肝臓辺縁が鈍で小さいこと以外に大きな異常は認められなかった。エコーレベルで門脈の萎縮がなかったことから肝実質病変を疑い、麻酔下での造影CT検査と腹腔鏡検査、そして胆汁の細菌培養検査を計画した。
得られた結果から、原発性門脈低形成と銅蓄積性肝障害と診断した。銅蓄積性肝障害は先天的な代謝異常で治療しないと次第に肝硬変へ移行していく命に関わる病気として知られる。残念ながら根本的治療はないため、銅含有量の少ない治療食と体内の銅を排出させる薬剤を用いて緩和治療を実施した。これによって、数ヵ月後には肝数値は基準値に改善した(ALT:61U/L)。

今回紹介した症例はどちらも肝生検なしには診断できない病気でした。しかし、見た目に症状がない点は同様ですが、その後の治療では食事や内服といった点で全く異なる対応が必要でした。そのため、肝生検はとても重要なのです。そこで腹腔鏡が役立ちます。麻酔自体かけたくないと思いますが、体にかかる負担や傷口のサイズは小さくなるからです。
皆さんのわんちゃん、ねこちゃんが肝生検を提案されたときに今回の記事が少しでも背中を押す力になれば幸いです。